特定非営利活動法人 行田観光物産会
埼玉県北部に位置する行田市は、「足袋のまち」として古くから知られてきました。近年では、市内を舞台とした映画やドラマのヒット、そして「和装文化の足元を支え続ける足袋蔵のまち行田」として、2017年には日本遺産に認定。今後更なる観光客の増加が見込まれています。
そんな行田市で地元を盛り上げるべく活動しているのが、地元行田を愛する若者を中心に発足されたNPO法人・行田観光物産会です。今回は、行田観光物産会が委託を受けて運営する施設「観光情報館ぶらっとぎょうだ」を訪問し、代表理事の戸塚さんと、「ぶらっとぎょうだ」事業部の長谷川さんにお話を伺いました。
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共助社会づくり課
「活動のきっかけを教えてください」 -
行田観光物産会 戸塚さん
「行田市は、古代蓮の里などの観光地はあるものの、年々活気を失いつつありました。このままでは行田が衰退してしまう。そんな危機感を持ち、地元を盛り上げようと頑張っている人はいましたが、なかなか成果を得られていませんでした。
行田を盛り上げるためには、やはり街全体で取り組まなくてはならない。そう思い、私が行田に暮らすメンバー6人に声をかけ、活動を始めたのが2001年のことです。
メンバーの多くは、個人で店を営んでいます。自分の店を持ち、自ら率先して動かなければならないからこそ、行田の将来に危機感を覚え、行動を起こすまでに繋がったのだと考えています。現在では約50人のメンバーが活動に参加しています。 -
共助社会づくり課
「発足当初は、どのような活動をされていたのですか。」
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戸塚さん
「まずは、各地の事例を学ぶことから始めました。秩父のナイトバザールなど、街全体で一体となって取り組んでいる活動を視察していくうちに、小さいイベントでも、続けることが大事だと考えるようになりました。
また、視察や取材をするにあたって、法人格のない任意団体では交渉が難しいことが多々あり、NPO法人化するに至りました。」 -
共助社会づくり課
「行田を盛り上げるための様々な取組を行っていらっしゃいますが、活動するに当たり意識していることはありますか。」 -
戸塚さん
「まず、地元住民の視点で考えること。また、制約があまりない民間だからこそできる、他にない面白いことをやろう、と心がけています。
例えば、以前、物産会では『行田の迷い方』という行田を紹介する冊子を発行しました。行田は忍城の城下町だった時代の名残で、敵が侵入しにくいように、路地が多く入り組んだ複雑な街並みをしています。市外の人からよく聞く『行田の道はわかりにくい』『迷子になる』という言葉をヒントに、迷い方というユニークなタイトルをつけました。
内容については、大手出版社が手掛ける著名な観光ガイドや、行政が作成したパンフレットといった、既存の資料では取り上げられてこなかった情報も載せるように心がけました。たとえば、大手出版社の観光ガイドでは、取り上げる店や施設、名所がある程度固定化される傾向があります。『行田の迷い方』では、個人が営むお店やおすすめスポットなど、地元住民だからこそ知っている情報を掲載するようにしました。また、行政のパンフレットには、確証がない情報や、偏りがあると判断されるような情報が掲載されることはありません。『行田の迷い方』には、地元住民の間で語り継がれてきた逸話や、歴史上の一説など、制約がないからこそ載せられる面白い情報を沢山掲載しています。」
足袋を縫うミシン 店内で販売されている多種多様な足袋
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共助社会づくり課
「街全体で一体となって取り組む、となると、他の様々な主体と連携して取り組む必要があるかと思います。連携状況について教えていただけますか。」 -
戸塚さん
「街を盛り上げるためには、やはり民間と行政が一緒になって取り組むことが必要だと考えていますので、行田市役所など、行政からの協力依頼には積極的に応じるようにしています。
また、観光ボランティアに取り組むシニアの団体『行田観光ボランティア会』や、甲冑姿で行田市のPR活動を行う観光PR隊『忍城おもてなし甲冑隊』など、行田には素晴らしい活動をしている団体がたくさんあります。連携することで団体それぞれの強みを生かし、お互いにより良い活動ができるよう取り組んでいます。
活動のきっかけでも触れたとおり、かつての行田は、街を盛り上げたいという志を持って活動している個人や団体がいるにも関わらず、それぞれが個別に活動している『横のつながりが薄い』状況にありました。そこで、団体同士の間をつないだり、行田観光物産会から率先して他の団体の活動に参加したり、行田内の横のつながりを深められるよう意識して、日々の活動に取り組んでいます。」 -
共助社会づくり課
「映画『のぼうの城』やTVドラマ『陸王』のヒット、そして日本遺産への認定を受け、近年行田への注目度が急速に高まっています。行田観光物産会では、この状況をどう捉えていらっしゃいますか。」 -
戸塚さん
「昨年の陸王のヒットの影響はとても大きく、沢山の方に行田を訪れていただきました。しかし、このようなブームはあくまでも一過性のものです。陸王ブームが下火になっていくのを黙って見ているのではなく、一気に上昇した知名度を活かして、次の取組に繋げる必要があると考えています。」 -
共助社会づくり課
「具体的には、どのような取組を検討されているのでしょうか。」 -
戸塚さん
「まず、既にスタートしている取組が、行田産の大麦を利用したビール『麦乃王』の開発です。行田観光物産会では、地元の農産物を活かした商品開発に以前から積極的に取り組んできたのですが、中でも今回のビールは、全国的にも珍しい『地元産の大麦』を使用した地ビールという点で、かなり注目されています。」 -
長谷川さん
「行田市は県で一番の収穫量を誇る二条大麦の生産地です。そのことにあやかり、麦の王様『麦乃王』と名付けました。」 -
戸塚さん
「また、行田の物産の魅力について知ってもらうために、各地に赴いてのPR活動にも取り組んでいます。全国の都道府県を回る"PRキャラバン"を続けているほか、8月には、秋葉原で開催されるイベント『全国ふるさと甲子園』への出展も控えています。行田名物の古代米カレーやゼリーフライなどをPRする予定です。」 -
共助社会づくり課
「『ぶらっとぎょうだ』は、行田市観光協会から業務委託を受けて運営しているとのことですが、事業の受託を含め、資金調達にはどのように取り組んでいらっしゃいますか。」 -
長谷川さん
「資金調達は、NPO法人として活動を始めた当初に比べると、調達もスムーズに行えるようになり、状況は良くなりました。ですが、現在でも資金面に余裕があるとは言えない状況です。」 -
戸塚さん
「今後も行田観光物産会が活動を続けていくためには、運営に必要な資金を自ら稼ぐ、自立したNPOになる必要があると考えています。そのために、『ぶらっとぎょうだ』の運営はもちろん、事業の受託をさらに増やすことが当面の目標です。
また、日頃活動をする中で調達に苦労しているのが、人件費です。『ぶらっとぎょうだ』の委託で得た資金を充てることで、優秀な人材を確保できたという経験もあり、人員を確保するためにも、補助金ありきではなく、自ら資金を得ることを前提に活動していきたいと考えています。」 -
共助社会づくり課
「今後の活動の展望について教えてください。」
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長谷川さん
「行田により多くの人に訪れてもらうにはどうしたらよいかを更に検討していく必要があると考えています。国内からのお客様の場合は、四国や関西から出張のついでに行ってみる、など『せっかくなので足を伸ばす』という方が多くいらっしゃいます。その方たちをどうおもてなしするか、このことも大切にしていきたいです。」
ぶらっとぎょうだ店内の様子 -
戸塚さん
「海外から来日した方を行田に呼び込むためには、2020年のオリンピックが絶好のチャンスだと考えています。国内はもちろん、海外に向けたPRにより力を入れていきたいです。」 -
長谷川さん
「『陸王』が放映された香港や台湾からは、既に多くの観光客が行田を訪れています。実際に話を聞いてみると、東京観光のついでに、行田まで足を延ばしていただいているようです。」 -
戸塚さん
「行田には城や蔵があり、甲冑隊などの忍者もいて、外国人の方がイメージする日本が再現されています。都心からのアクセスの良さを生かし、オリンピック開催時に沢山の方に訪問してもらえるように準備を続けていくつもりです。」 -
共助社会づくり課
「『麦乃王』の第2弾発売は計画されていますか。」 -
戸塚さん
「『麦乃王』は海外で主流の"エールビール"という種類のビールなので、海外に向けたPRでも生かしたいと考えています。現段階ではっきりとした計画があるわけではないのですが、クラウドファンディングなどの手法を利用し、資金を集めた上での第二弾発売も検討しています。」 -
共助社会づくり課
「最後に読者の方や、他のNPOの方に向けて一言お願いします。」 -
戸塚さん
「行田市のように、街主体で地域を盛り上げることももちろん大切ですが、それ以上に埼玉県全体で盛り上がることが、地域の盛り上がりにつながると考えています。ぜひ、埼玉県全体で、地域を盛り上げていきましょう!」
元気な商店街応援事業表彰式での戸塚さんと長谷川さんと上田知事