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特定非営利活動法人子どもセンター・ピッピ

「子どもシェルター」とは

子どもの7人に1人が貧困状態という「子どもの貧困」や、年間約80人もの子どもが命を落としているという「児童虐待」など、昨今、日本の子どもたちを取り巻く深刻な現状が改めて浮き彫りとなっています。

様々な事情で帰る居場所のない子どもたちを保護するための施設として、2004年に東京で初めて設立されたのが「子どもシェルター」と呼ばれる民間の緊急避難場所です。

今回は、埼玉県内初の子どもシェルターを2017年2月から運営する、特定非営利活動法人子どもセンター・ピッピを取材し、同団体の理事長であり、自らも弁護士として多くの子ども達と接してきた大倉浩氏にお話を伺いました。

活動レポート「特定非営利活動法人子どもセンター・ピッピ」について

  • 共助社会づくり課
    「活動を始めるまでの経緯について教えてください。」
  • 子どもセンター・ピッピ 大倉氏(以下大倉氏と表記します)
    「少年事件などに取り組む弁護士が中心となり、団体の設立に向けて動き始めました。
    我々弁護士が非行少年の付添人として仕事をする中で気づいたのが、その多くの原因が家庭環境の劣悪さにある、ということです。
    弁護士の業務では既に非行に及んでしまった子どもに寄り添う仕事をしていますが、そもそも非行に及ぶ前に助けることはできないだろうか、と考えたことがきっかけです。」
  • 共助社会づくり課
    「子どもを保護する施設というと、児童養護施設などの公的な施設のイメージがありますが、どうして子どもシェルターが必要なのでしょうか。」
  • 大倉氏
    「帰る居場所のない子ども達は、18歳未満であれば、児童福祉法の要保護児童に該当し、社会的養護(※1)の対象となり、児童養護施設や、児童相談所が設ける一時保護所といった制度で保護・支援されることとなります。
    しかし、一時保護所が満員であったり、様々な状況の子どもに対して個別に対応できる体制が整っていないなど、すぐに受け入れてもらえないことも多々あります。
    加えて、18歳以上になると、就労支援を目的とする「自立援助ホーム」(※2)以外に公的な支援制度がなくなってしまい、18歳から20歳までの子どもたちの多くが、制度の狭間に放り出されています。
    子どもセンター・ピッピでは、10代の子どもを対象として、緊急の要請に応じてできる限り早く保護できる体制を取っています。」

(※1)社会的養護:保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと。児童養護施設や乳児院等の施設、里親制度などが該当する。

(※2)自立援助ホーム:義務教育終了後、様々な理由で家庭にいられなくなり、また児童養護施設等を退所し、働かざるを得なくなった、原則として15歳~20歳までの青少年が暮らす施設。社会的養護の一種。自立のための援助及び生活指導を行う。

  • 共助社会づくり課
    「子どもシェルターへの子どもの受け入れについて、具体的に教えてください。」
  • 大倉氏
    「保護された子どもには、安心できるように個室と温かい食事を提供するとともに、担当の弁護士が2名つき、シェルター退去後の生活に向けた相談や支援を行います。あくまでも一時的な避難場所ですので、約2か月を目処としています。
    また、安全を確認できた子どもについては、シェルターから学校にも通うこともできます。」(※3)

(※3)多くの児童相談所の一時保護所では、安全面を考慮し学校に通うことができない。

  • 共助社会づくり課
    「受け入れられる子どもは、どのようにしてシェルターにやってくるのでしょうか。」
  • 大倉氏
    「一番に多いのは児童相談所からの要請です。学校の先生からの相談、そして警察からの要請も多くあります。
    対して、保護を必要とする子ども本人から連絡が入ることは滅多にありません。比較的インターネットを使い慣れている現代の子ども達が子どもセンター・ピッピの情報にたどり着きやすくなるよう、今後団体独自のHPを開設し、情報発信していきたいと考えています。」
  • 共助社会づくり課
    「対象者を主に10代後半の女子としていますが、どうしてですか。」
  • 大倉氏
    「子どもシェルターの運用開始以来、8人の女の子を保護してきました。なぜ男の子を主な対象としていないのかというと、男の子は家庭に帰れずとも、建築業などの寮付きの住み込みの仕事が多くあり、居場所を探すことが比較的安易だからです。
    実際、帰る場所がなく困っている男の子がいる場合は、理解ある企業にお願いして、住み込みの仕事を紹介してもらうことが多くあります。
    一方の女の子は、男性ばかりの住み込みの寮を紹介できないとなると、居場所を探すことが困難です。事実、居場所のない女の子の多くが、住まいを提供する性風俗業に流れている、という現状もあります。」
  • 共助社会づくり課
    「弁護士を中心に立ち上がった団体とのことですが、活動にはどのような方が携わっているのですか。」
  • 大倉氏
    「弁護士の他に、児童自立支援施設出身者や元スタッフといった、児童福祉に関わりのある方に多く御参加いただいています。
    また、食事の調理など、シェルター内の運営をボランティアの皆さんに無償でお手伝いいただいています。ボランティアといえども、様々な事情を抱えた子どもと接する重要な役割ですので、講習を受けた上で面接で合格した方のみに協力いただいています。
    一方で、主な支援対象としている子ども達と同性の、女性の弁護士の人数が不足していることが大きな課題です。」
  • 共助社会づくり課
    「支援を受ける子どもからは一切費用を受け取っていないとのことですが、運営に係る費用はどのようにして工面されているのでしょうか。」
  • 大倉氏
    「設立当初は団体メンバーの持ち出しのみで運営を始め、加えて法人会員から毎年徴収する会費でどうにか運営している状況です。
    児童養護施設や自立援助ホームといった児童福祉に係る施設には、一人の受け入れに対して一定額が支払われる公的な補助金の仕組みがありますが、子どもシェルターには未だそのような仕組みがありません。」
  • 共助社会づくり課
    「現在は、活動継続のためにシェルターの運用を一時休止していると伺いました。具体的にはどのような準備を進めているのですか。」
  • 大倉氏
    「先ほど申し上げたとおり、子どもシェルターに関する公的な補助金制度はまだ整っていないのが現状です。
    そこで、補助金の制度がある、自立援助ホームの認可取得のための手続きを進めているところです。(※4)
    現在よりも定員数が増えるため、より広い転居先を探しています。学校への通いやすさや、安全性など、考慮すべきポイントが多々あるため、なかなか良い物件が見つからずに苦労しているところです。」

※4 2011年7月より、子どもシェルターも、要件を満たせば自立援助ホームの特殊な形態として認め、自立援助ホーム委託費を受けられるようになった。

  • 共助社会づくり課
    「最後に、子どもセンター・ピッピの活動について、思いをお聞かせいただけますか。」
  • 大倉氏
    「活動をしていて感じたのは、子どもを支えたい、という「善意」のみで協力して下さる方がこんなに沢山いるのか、ということでした。
    子どもたちの支援に携わる方に一番求められるのは、何よりも、熱意を持って取り組むということです。
    女性弁護士を含め、より多くの方に、自らの意思で熱意を持って御協力いただけるよう、子どもシェルターの活動についてより周知していきたいと思います。
    また、保護された子ども達との関わりは、シェルターを卒業して終わるわけではありません。子ども達が自立して生きていくことができるよう、シェルター卒業後も継続して支援していくことが重要です。」

大倉氏写真

子どもセンター・ピッピ 大倉 浩 氏

特定非営利活動法人子どもセンター・ピッピの情報については、下記より御覧いただけます。(NPOデータベースが開きます)
http://www.saitamaken-npo.net/database/kyoudou/group.php?mode=detail&id=160913194156

取材を終えて(共助社会づくり課より)

「帰る居場所のない子どもがいる」。

そう言われても、なかなか実感が湧かない、という方が大半ではないかと思います。

しかし、児童相談所の一時保護施設で保護された子どもは、年間で約2万人にも上ります(平成27年)。
見えないだけ、気づかないだけで、困難を抱えた子ども達はみなさんの身近にもきっといるはずです。

すぐに行動には移せずとも、子どもたちの現状、そして子どもたちを支援する取組について知ることが、私達にもできる第一歩ではないでしょうか。