NPO法人埼玉カウンセリングセンター
「特定非営利活動法人埼玉カウンセリングセンター(以下、埼玉カウンセリングセ
ンター)」は、学校や病院などで働くカウンセラーや臨床心理士が、より多くの人のこ
ころのケアに携わりたいと2006年に設立されたNPO法人です。専門家による、
心理カウンセリングなどの相談事業や、カウンセラーや相談員を目指す人のための研
修事業の他、災害時におけるこころのケア活動などに取り組んでいます(注1)。
今回は、代表理事の高倉恵子さんにお話を伺いました。
◆埼玉メンタルサポートシステム◆
埼玉カウンセリングセンターでは公的助成を受け、平成20年度から災害時に速や
かにこころのケア活動が展開できるよう、メンタルサポーター(地域ボランティア)
と危機支援アドバイザー(カウンセリングの専門家)による支援ネットワーク、埼玉
メンタルサポートシステム(以下、SMSS)を3年間にわたって構築してきました。
(注2)
SMSSでは災害時におけるストレス・マネジメントや傾聴の訓練、要援護者の支
援などの研修の他、埼玉県とさいたま市の協力により東京ガスが主催した、防災イベ
ントへの出展などを通じて、来るべき災害に備え、準備を進めてきました。現在では、
メンタルサポーター118名、危機支援アドバイザー20名が、埼玉県の全域で有事
のこころのケアに備えています。
◆さいたまスーパーアリーナでの活動◆
有事の際に地元が地元を支えるスキーム作りを目指して始めたSMSSでしたが、
この備えが突然、活きることになりました。3月16日、東日本大震災の影響で、東
京電力福島第1原発周辺からさいたまスーパーアリーナに、2000人近い被災者の
方々が避難をしてきたのです。
埼玉カウンセリングセンターは、震災支援ネットワーク埼玉(※)の一員としてニ
ーズ調査班に参加、被災者が今、必要としている事をアンケートによって調査して回
りました。また、こころのケア活動の一環として足湯を実施、延べ514人もの方が
足湯マッサージを体験し、心身の疲れを癒しました。
高倉さんは言います。「カウンセリングというと、心の開示とか悩みの相談という事
を想像しますが、被災者とそういった関係になるには時間が必要です。はじめは、足
湯などを通じてリラックスしてもらって、そこから少しずつ、心をほぐしていくよう
なプロセスが必要なのです。失ったエネルギーを、安心感や、人のつながりを感じる
ことにより、補充していただけたらと思いながら足湯をしています」。
(※)被災者を支援するため、弁護士・司法書士・社会福祉士・臨床心理士・女性相
談・労働相談の専門家・いのちの電話・学校教育関係者などが連携して発足したボラ
ンティア団体。
◆中長期的な支援に向けて◆
被災者のこころのケアには、中長期的な支援が必要となります。埼玉カウンセリン
グセンターでは、埼玉県内に避難されてきた方々に対し、継続的なこころのケアを実
施しているとともに、東日本大震災における中長期的なメンタルサポートにむけて、
カウンセラーとボランティアの被災地派遣の準備を進めています。
この震災によってそれぞれが大きな影響を受け、被災者ひとりひとりがこれからの
人生をどう歩んでいくのかについての選択に迫られています。こうした選択は、もち
ろん個人の意志が尊重されるべきですが、一方で、自立を重視することにより起こる
「個性化の危険性」を高倉さんは指摘します。阪神大震災では、地域住民がそれぞれ
の生活維持の為、離散し、コミュニティが崩壊してしまった結果、多くの孤独死を招
いてしまいました。こうした教訓を生かして、災害時においても個人を独りにしない、
みんなで支え合うことのできるコミュニティづくりを、地域がチカラを合わせて日常
から取り組んでいくことが必要です。それは、今までの関係を維持するものであった
り、避難先の地域や仮設住宅等であったり、新しいコミュニティづくりも含めた広い
視野を持ったものでなければならないと考えています。
◇訪問を終えて◇
埼玉カウンセリングセンターさんは、3月12日に「埼玉こころのケアセンター」を
立ち上げ、県内のみならず、被災地の復興を含め、支援の中心を担っています(注3)。
震災におけるこころのケアは、まだ始まったばかりです。被災者の中長期的なメンタ
ルサポートに向けて、これからの活躍に期待が高まるところです。
(注1)平成21年度協働事例集:特定非営利活動法人埼玉カウンセリングセンター
↓
http://www.saitamaken-npo.net/html/report/ky/h21kyoudoujirei/tsunaga09_counseling.html
(注2)東日本大震災を契機に立ち上げた、震災時臨時組織「埼玉こころのケアセン
ター」。
↓
http://npo-scc.jp/cocoronocare_center.html
(平成23年6月取材)