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川越きもの散歩

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きもの散歩メンバーの町歩き、きものと調和している

 

 

蔵づくりの町並み、きものがよく似合う

   

新しさと伝統が融和した町、川越 

 川越は昔ながらの町並みと文化が残る街である。江戸から一番近い城下町であり、県内で最初の市だそうだ。あらゆるものがワーッと一斉に新しくなって行った時代でも、川越は同じような方向へ進まなかった。駅前から少し離れると昭和・大正・明治の表情が残る通りが現れる。ここ川越の“町並み”を“きもの”という文化で守っていこうという活動をしているのが、「川越きもの散歩」である。きものを愛好する人々の活動で2009年2月、法人の認証を得た。代表理事の藤井美登利さんは、都内に住んでいた時に初めて訪れた川越の町並みに魅かれ、転居を決意したという。めまぐるしく変わる東京の時間のつながりを断ち切るような景観に違和感を持っていて「私は景観難民で川越に避難してきたんですよ」と語る。

 

地元の文化を紹介するミニコミ誌の発行

 各地のタウン誌の収集が趣味であった彼女は、ここでの生活に慣れるにしたがい、川越祭りをはじめとする四季折々の行事が残るこの町の暮らしを記録したいとミニコミ誌「小江戸ものがたり」を発刊。これがこの会の前身「川越むかし工房」の立ち上げにつながった。これにより、多くの歴史や文化に触れる機会が増え、ますます愛着が高まっていった2002年、明治43年築の川越織物市場がマンション建設のために取り壊されるという話を耳にした。藤井さんたち市民グループと地元自治会は保存運動を展開、その甲斐あって川越織物市場は有形文化財に指定され、建物は守られた。この運動がきっかけで、毎月1回きもので町歩きをする“ 川越きもの散歩” が生まれた。「織物は川越文化の柱の一つ、町並み保存を考えるとき、きものがキーワードになると思いました」と藤井さんは語る。昔から川越は、「川越唐桟(とうざん)」が有名で、また、「秩父銘仙」も織物市場で取引されていたのである。

 

織物を通して地域の資源を生かす

 この町並みと着物の発想が今回の取材テーマである行政との協働事業へと結びついた。当時は、まだ任意団体であった「川越むかし工房」は、NPO協働提案推進事業に「織物で紡ぐ埼玉の元気なまちづくり」“織物という切り口で地域資源を生かす”というテーマで提案して採択された。この事業で「川越きもの散歩」、「秩父きもの散歩」、「埼玉織物サミット勉強会」そして「冊子埼玉きもの散歩の発行」の4つの取組を行うことになった。 

 「川越きもの散歩」はきもの姿も町の景観のひとつと捉え、毎月28日川越成田山川越別院の骨董市にきもの好きが集い、町を歩くものだ。「きもの散歩」は川越以外の織物ゆかりの町でも開催され、2009年までに小川町・秩父・行田・越生などで開催された。いずれも景観の保存運動につなげて行くことが目的である。事前に連絡すれば誰でも参加可能だ。これからきものを着てみたいというきもの初心者を歓迎している。きものを持ってない人にはレンタルや格安のリサイクルショップなどを紹介するそうだ。

 

埼玉の養蚕文化を知ってほしい

 「秩父きもの散歩」も趣旨は「川越きもの散歩」と同様である。かつて織物生産で栄えた秩父の街おこしになればと企画した。地元の養蚕農家や秩父銘仙の生産者にも協力してもらっている。特に秩父は、地域限定の繭「いろどり」の産地だ。柔らかなクリーム色をした繭で、抗菌性や抗酸化性、保湿効果に優れていることから石けんや化粧品にも使われている。この会では、今後、養蚕農家、製糸業者、織物業者そして消費者との連携を進め、埼玉のオリジナルブランドとして「いろどり」の流通の輪を広げていく方針である。 

 これらの活動が発展して、より活発になってきた。「かつて地域を支えていた織物の復元や伝承活動に取り組む団体とまちづくり団体を結ぶ「埼玉織物サミット勉強会」が実現した。2007年12月に行われた勉強会では、きもの愛好家やまちづくりに関わる14団体などから150名が参加、埼玉の織物について学ぶ有意義な催しとなった。

 

 

反響を呼んだ「埼玉きもの散歩」を発行

 そして、県内の織物ゆかりの地を紹介した小冊子「埼玉きもの散歩」が発行された。秩父銘仙や行田の足袋、川越唐桟など埼玉を代表する織物と、それを守っている織元を紹介したところ、県内外からの問い合わせも多く、大反響だったという。

 「ここまでネットワーク化できたのは、知事とのNPO意見交換会のときに、各地で町づくり活動をしている方たちと”みんなで共通のことができないか”という話ができたからです。そして皆さんとの意思統一ができたからです」と藤井さんは語る。これからは子育て中の若いママに子どもと一緒に着物に親しめる手助けもしていきたいと語る。

川越のミニコミ誌「小江戸ものがたり」

この発行が活動につながった。

 

 

大きな反響を呼んだ「埼玉きもの散歩」の

発行。協働事業の中心のひとつ。

繭の地産地消運動を展開していく

 

☆協働相手からの応援コメント☆
秩父地域振興センター 県民生活担当課長 大澤勝氏
 「川越むかし工房」は任意団体でしたから「協働」に多少の不安はありました。しかし、藤井代表の行動力はなかなかのもので、知らず知らずのうちに、こちらも熱が入ってしまいました。
 特に忘れられないのは、冊子が完成したときの反響です。メンバーの皆さんが着物姿で記者発表したものだから、多くの新聞に掲載され、当事務所の電話は、何日も鳴り放しでした。
 事業が終了してから1年半が経過しました。藤井代表は「特定非営利活動法人川越きもの散歩」を設立し、養蚕農家の見学会や、県内産の繭「いろどり」を使用したきものづくりを進めています。協働提案推進事業が一発の花火で終わらなかったことに、喜びを感じています。