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埼玉県移送サービスネットワーク

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移送サービスとは?

 移送サービスとは、バスや電車などの公共交通機関を利用した外出が困難な、内部障害・知的・精神などすべての障がい者、要介護・要支援の人たちに、クルマを使って病院や介護施設への通院・通所、買い物など、その外出全般を支援するサービスのこと。「埼玉県移送サービスネットワーク」(以下「埼玉県移送サービス」)は社会福祉協議会・医療機関・NPOなど、そうした移送サービスに携わる埼玉県内の各団体と連携し、移送サービス活動全体にわたるさまざまな問題をともに考え、ともにその解決に取り組むネットワーク組織だ。埼玉県比企郡ときがわ町に本部事務局を置く。代表の笹沼さんによれば現在県内の移送サービス団体はその数約200。私たちがふだん町中で見かける福祉車両の台数は県内でおよそ2,000~3,000台に上る。しかし、この数はまだまだ需要に追いつくものではないという。

 

道路運送法80条の問題

 「埼玉県移送サービス」の設立は1999年。その前年に開催された埼玉県ボランティア大会開催で、移送サービスに取り組む団体が集まってさまざまな問題を話し合った。当時のとりわけ大きな問題が道路運送法80条問題。同法80条では「利用者の安全のため、自家用自動車は有償で運送の用に供してはならない」と規定されていたが、ただし「公共の福祉を確保するために」自治体が運営主体になる場合に限りこれを許可するという例外条項もあった。しかしこの法の網目からこぼれた社会福祉協議会、NPOやボランティアの運営する有償移送サービスはいわゆる白タクと同一視され、いわば「お目こぼし」状態の中で活動せざるを得なかったのだ。笹沼さんたちは、これらの問題解決のためには移送団体がネットワークを作って現場から行政に働きかけるしかないとの認識で一致した。

 

 

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以前は、在宅で生活する人はそれほど多くはなかった。リフトを架装した福祉車両などもまだ生産されず、タクシーも乗車拒否に遭うなど、彼らの外出は困難を極めた。そこで支援者たちはアメリカからリフトを輸入し、改造車に載せ、車いすでの移送を可能にした

tsunaga09_isouservice2.jpg認定試験風景

 

「外出したい」の声に応えて

 笹沼さんが語るには、自身この仕事に携わり始めた40年ほど前は、在宅で生活する身体障がい者はそれほど多くはなかった。リフトを架装した福祉車両などもまだ生産されず、タクシーを利用しようとしても乗車拒否に遭うなど、彼らの外出は困難を極めた。そこで彼らとその支援者たちはアメリカからリフトを輸入して改造車に載せ、車いすでの移送を可能にして活動してきた。道路運送法はそこに重くのしかかっていたのだ。

 そんな移送の揺籃時代から状況が激変したのは2000年、介護保険法の成立がきっかけだった。同法の理念は、介護保険の適用者に在宅中心の生活を構築させようというもの。ところが、介護ヘルパーたちが訪問介護先で「外出したい、クルマで連れて行って」と思わぬ懇願を受けることもしばしばあるという。勢い移送サービスも急増する事態になった。折から小泉政権の構造改革の波にも乗り、笹沼さんたちは白ナンバーでの有償移送を可能にすべく、構造改革特区適用を申請して国に強く働きかけた。そして2006年、ついに道路運送法の改正を実現する。この間笹沼さんは国土交通省の検討委員会で審議委員を務め、法改正のために側面からも尽力した。

 法改正に伴い、普通1種免許があれば誰でも移送車両の運転ができることになったが、条件として認定講習を受けることが義務づけられた。現在「埼玉県移送サービス」は国道交通大臣が認定する講習の実施機関のひとつに指定されている。認定講習会は1月おきに年6回開催され、毎回100人ほどが講習を受けている。

 認定講習会以外の主な活動としては①メール・ファクス・電話などによる情報提供(行政の情報・移送サービス関連情報・講習会情報)やさまざまな相談への対応②全国各地での生活交通問題シンポジウム参加や埼玉県内での同シンポ主催③80条改正後のフォローアップ検討会・福祉有償移送の在り方調査委員会(ともに国交省の運営)への参加など多岐にわたる。

 

いま全国に生活交通の空白地帯が…

 また2009年「埼玉生活交通研究会」を立ち上げた。地方の限界集落の増加と路線バス廃止の拡大が象徴するように、いま全国各地で生活交通空白地帯が急増しつつある。これを阻止するのは焦眉の急だが、移送サービス団体の力だけでは手に余る問題だ。タクシー・介護タクシー・バス・デマンド交通など、各生活交通機関が総力を挙げて対応するしかない。そのためにどうするか?これが同研究会のテーマだ。笹沼さんが語る。「このままでは全国どこでも移動困難者の外出手段がなくなってしまうという危機感を持ちます。私たちは民間の立場から行政と連携してこれを解決していくしかない。研究会は年3~4回は開催します」

 笹沼さんは移送サービスそのものの事業性についてもその厳しさを吐露する。「乗り合いでなく1人をドアツードアで移送するわけで、採算面で厳しい。国の指導によって運賃もタクシーの半額並みに設定せざるを得ない。しかし国からの補助はない。世界の移送サービスではみな国の補助でバス料金並みを実現している。私たちももっと低料金でのサービスを実現するために各方面に改善を訴えています」

 

☆協働相手からの応援コメント☆
埼玉障害者ネットワーク 代表・野島久美子氏
 笹沼さんには公私共にお世話になっています。
 私たち車椅子障害者にとって移動はまだまだ課題が多いと思います。シンポジウムつながりで、秩父のタクシーを利用したりしました。希望としてはもっと移送ネットの車を使っていければいいと思います。理想的には、笹沼さんも言っているように、バスがもっと乗れるようになれば良いと思います。これからも笹沼さんたちと連携して運動していきたいと思います。