サイト内検索
トップページ > 活動レポート > 共助社会づくり課による取材 > 平成21年度協働事例集 > ほっとポット

ほっとポット

tsunaga09_hotpot.png

 2004年3月、コーヒーや味噌汁をポットに入れて公園や河川敷で野宿生活を送る生活困窮者を訪問し、ほっとして貰うことを手始めにボランティア活動を開始した「ほっとポット」。スタート時は任意団体だったが、2006年10月、法人の認証を受けた。今ではさいたま市を中心に、地域の大家さんや不動産屋さんの協力を得て空き家や空アパートを低家賃で借り、生活困窮者の人々が自立するまでの間、一時入居できる場所を24ヵ所、107世帯分提供している。

 

 

病院との協働 殆どの人は健康保険証を持っていない

 「ほっとポット」が年に1,000人位相談にのっている生活困窮者の8割は、収入がない、仕事がない、病気で働けない。しかし住所があれば、生活保護や年金、資格があれば、失業保険が受けられる場合がある。この団体ではメンバーが役所まで付き添って収入を確保する手だてを福祉課の窓口で相談し、模索して一緒に何とか収入の道を見つけている。病気にかかっている人の多くは糖尿病とか高血圧の持病がある。住まいが確保できれば、病院に通うことができるが、殆どの人は健康保険証を持っていない。こういう場合、役所の福祉課と連絡を取り合いながら生活保護の申請をして医療扶助を受けるという方法もある。また健康保険証がなくても診てくれる病院もある。「ほっとポット」では川口やさいたま市内のいくつかの病院にも協力していただいている。

 

弁護士との協働 弁護士が「ほっとポット」を指名することも

 相談に来る人の悩みに多いのが多重債務だ。借金のために夜逃げ同然に逃げて、自立の第一歩を踏み出そうとしても新たに借りたアパート先にも督促が来てしまう。そんなとき同団体の解決策の一つが弁護士と相談で行う自己破産や任意整理の手続きである。近頃増えているのが貧困を背景にした犯罪である。生活困窮者が空腹に耐えかねてコンビニやスーパーでおにぎりや弁当を盗んでしまう。無銭飲食で警察に捕まり、弁護士の対応で、「ほっとポット」に要請がくるのだ。生活を安定させ、居住する場所があれば、執行猶予か処分保留になる場合もある。釈放される場合の受容れ場所として弁護士が「ほっとポット」を指名する場合がある。生活困窮の場合には、一番最初に相談するのが最寄りの区役所や市役所の福祉課である。どのような福祉サービスを受けられるのか、場合によっては生活保護に該当するから申請をした方が良いとか、相談にのってくれる場合がある。それには住所も必要で、「ほっとポット」では、不動産屋さんのネットワークを築いていて近くの物件を紹介してくれる。なかには「ほっとポット」の活動を理解していて、連帯保証人がなくても貸してくれる場合もある。人の悩みは千差万別、人それぞれの悩みに弁護士、保健士、大家、不動産屋、民生委員、保護司などの人たちと協働して解決の方向へ導いていくのである。

 

「ほっとポット」の事業

 「ほっとポット」には、大きく分けて6つの事業がある。まずは、地域の空き家を借り上げ、その一室を低家賃で貸している「地域サポートホーム」。数人での共同生活は小規模で家族的な雰囲気を保ちつつプライバシーが確保された住環境になっている。ほぼ毎日、社会福祉士が訪問し、生活上の手伝い、悩み相談、自立に向けたサポートを行っている。おおむね一年を目安に、民間アパートや社会福祉施設など必要に応じた住居へ移っている。

 そして、あんしん生活サポート事業「支援付きアパート」、生活困窮者に借り上げた大型民間アパートの一室を低家賃で貸している。こちらは入居者1名につき1戸。入居した人には定期的に社会福祉士が訪問し、地域の民生委員さんやケアマネージャーと協力しながら生活上のサポートをしている。

 また、「生活まるまるコーディネート」では、生活困窮者や不安を抱く人の相談に基づき、生活上のあらゆるサポートを社会福祉士や精神保健福祉士が行う。アパート探しや入居支援、生活保護申請の同行、各種福祉サービスの紹介や手続き支援、障がい者手帳の申請補助、介護サービスの導入補助、多重債務・病気の相談、更生保護など「よろず生活相談」とあらゆる生活上のサポートである。

 サポートホームやアパートを利用されている人々が気軽に立ち寄れるサロン「ほっとサロン~ゆう~」では毎月一回食事会(芋煮会、鍋大会)を開催している。地域住民やほっとポットを支援している人々、ボランティアも参加し、自由に出入りしながら交流や情報交換、仲間づくりが行われている。

 「緊急一時シェルター」はホームレス状態の人や帰る場所のない人に対して、安定した住居が見つかるまでの間(約2週間程度)一時的に個室一部屋を貸している。入居中は社会福祉士がアパート探しや仕事探し、生活保護申請、更生支援などのサポートを行っている。

勤務中のスタッフ。みんな20代の若者

支援者から送られたお米

市内のほぼ中心にある「ほっとポット」の事務所

  

健康で文化的な最低限の生活 人生をやり直すための「助け舟」として

 職員は22~29歳までの若い年代で6人、全員が社会福祉士の資格を持っている。サポートを受ける人は、生活困窮者、お金を貰うことは殆どできない。応援してくれる企業や個人の寄附、会員の会費で賄っているが、内情は大変苦しい。しかし「社会福祉専門職としてのアイデンティティと使命感をもち、生活に困窮して相談に来られた人々の権利を守るためにお手伝いをさせていただくという姿勢で、実質的な問題解決を図る事を目指しています」と代表理事の藤田孝典さんは語る。「現在の雇用・社会情勢を見れば、生活に困窮することや失業は珍しいことではありません。生活困窮状態に陥った事を『自己責任』と恥じるべきではありません。これまで生活保護は、『最後のセーフティネット』であると言われ、『本当に最後の最後』『極限状態』に至った人が利用するものだとの考え方でした。しかし近年では、生活保護の利用は極限状態に至ってからというより『早めに利用して、自立に向けての生活の再建を図るためにある』という考え方に変わってきています。人生をやり直すための『助け舟』としてできるだけ早く積極的に活用すべきであるということです。行政には憲法25条の『健康で文化的な最低限の生活』を保障する義務があります」と考えを述べている。